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エベレスト登頂ネット中継へ  登山家・栗城「みんなで夢を共有したい」(産経新聞)

 世界7大陸最高峰の単独制覇を目指す札幌市在住の登山家、栗城史多(くりき・のぶかず)さん(27)が今夏、単独・無酸素で世界最高峰のエベレスト(標高8848メートル)登頂を目指す。これまでに7大陸のうち6大陸の最高峰を制覇。エベレストは昨年、7950メートル地点で断念しており、今年、再挑戦となる。登頂の様子は動画で配信する予定だという。日本人初となる単独・無酸素での最難関へのチャレンジを前に栗城さんに話を聞いた。(加納洋人)

 ――酸素ボンベを使用しない無酸素での単独登頂は大変な困難が伴う

 「凍傷はもちろんですが。一番大変なのは睡魔です。7500メートルから先は、ほとんど寝ないで登っていく。寝ちゃいけないんです。横になって寝ると、呼吸が浅くなって、ぽっくりいってしまう」

 ――どのくらい寝ないのか

 「長いと、3日間は寝ない。酸素が3分の1の山で寝ていないと、ものすごい睡魔が襲ってくる。やがて、夢と現実の世界が錯綜(さくそう)し始める。真夜中に登っていて、ちょっと休むと、次の瞬間、なぜか札幌の自分の部屋にいる。暖かい布団の中に入りたくなる。『寝ちゃいけない』と登り続けると、今度は、実家にいる。玄関に父が立っていて、『寄っていけ、寄っていけ』と言う。そのとき寄っていたら、危なかったと思う」

 ――困難をどう乗り越える

 「8000メートルを越えて、ひとりで登り続けると相当苦しい。寒さが厳しく、孤独感もすごい。そんなとき、苦しみに対抗しようとすると、苦しみはどんどん増していく。逆に苦しみから逃げても、追っかけてくる。苦しみは受け入れるしかないんです」

 ――どうやって受け入れる

 「単純なんですけれど、苦しみに感謝するんです。苦しいときに、『すべてに感謝、ありがとう』と言葉に出す。苦しみに感謝して、ピンチをチャンスにかえていくんです」

 ――登頂の模様をどうやって動画で配信する

 「自分でビデオを持っていき、片手で撮りながら登る。昨年のエベレストではインターネットで生中継した。最先端の送信機と電池を背中にかついで登っていき、7000メートルの地点で待機するスタッフに映像をとばし、さらにそのスタッフが6400メートルの地点のスタッフに映像をとばして生中継した。今年もエベレストで生中継にチャレンジする予定です」

 ――強靭(きょうじん)な体力が必要ね

 「僕は身長162センチ、体重60キロと小柄です。病院の先生にからだを調べてもらったことがあるんですが、上半身と下半身の筋肉、肺活量など、すべてが平均以下だった。昔、ぜんそくでしたから、肉体的にはすごくもなんともない。ただ、普通の人は筋肉が疲れると、乳酸値が上がりますが、僕の場合、ある一定のところを超えると、体が乳酸値を下げようとするそうです」

 ――登山を始めたきっかけは

 「失恋です。高校卒業後、東京で1年間くらいブラブラとフリーター生活をしていた。目標も夢もない。希望は高3のときから付き合っていた2歳年上の彼女だけ。北海道に戻って、その彼女と一緒になろうと決心した。彼女の好みのタイプは『車を持っている大卒の公務員』。好みに合うように、札幌の大学に入学し、公務員試験の勉強も始めた。でも、買ったばかりの車の中で彼女にふられてしまった」

 ――ショックだった

 「彼女にふられ、部屋にずっと閉じこもっていた。ひきこもりです。朝から晩まで寝ている毎日。1週間以上寝ていたら、布団に人の形の黒カビがはえた。びっくりして、そのときスイッチが入った。『このままでは人間以下だ。何かやり始めなきゃ』。でも、何をやるのか。僕をふった彼女は、冬山を登る本格的な登山をやっていた。どうして小柄な彼女が山に行くのか、彼女が見ていた世界を見たくなった。僕は、彼女への未練から登山を始めたんです」

 ――それで目的を見つけた

 「自分のひきこもりの経験から、夢とか希望を持って、そこに歩んでいけるのが人間だと思った。登山の様子を動画で配信する企画を立てたのも、夢が実現するか、しないかをみんなで共有したいと思ったから。あんな兄ちゃんが、あんなすごいことができるんだったら、私も何かできるかもしれないと思ってくれるかもしれない。僕のやっている登山も何か意味を持つのではないかと思った」 

 ――しかし、命にかかわる挑戦です

 「登山で一番重要なのは、登ることじゃなくて、執着しないということ。夢、目標を持って向かっていくことは、実は簡単なんです。でも、途中で下りなければいけないときがある。そのとき一番大切なのは、執着しないことです」

 ――あきらめる決断が重要

 「人間は自然に向かっていっても勝てない。自然の中で生かされている。登れるかどうかは、山の神様が決めること。山っていうのは、本当にこわいところなんです」

 ■栗城史多(くりき・のぶかず)昭和57年6月生まれ。北海道今金町出身。現在、札幌市中央区在住。平成16年からこれまでに、北米・マッキンリー、アフリカ・キリマンジャロなど6大陸の最高峰を単独で制覇。平成19年からは、ヒマラヤ山脈のチョー・オユーなど8000メートルを超える3つの高峰の無酸素・単独登頂に成功した。著書に「一歩を越える勇気」(サンマーク出版)

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